Electrochemical Impedance Analysis for Li-ion Batteries (& economy a bit) 補足2 HEV用ニッケル水素電池

ここまでリチウムイオン電池の交流インピーダンス解析の話を散々引っ張っておいてなんだが(直流V-tシミュレーションの話のほうが多かったが)...

 

HEV用電池としては体積エネルギー密度はニッケル水素が優っており、重量エネルギー密度はほぼ同等。総重量は16kgほどリチウムイオンが軽いからここだけはリチウムイオンが優っている。
  1. ニッケル水素の電極はリチウムイオンと比較するとかなりの厚膜設計だが(正負極ともに350 μmくらい)、それでも30Cでフル充放電できるだけの入出力特性がある。容量は正極規制だが、正極の質量容量密度は300 mAh/gくらい、負極は超格子型では350 mAh/gくらいは有るだろう。容量利用率はSOC = 0-40%としても容量規制している正極で120 mAh/gくらいは使っていることになる。電圧は1.2 Vだから144 mWh/gということになる。
  2. リチウムイオンの電極はHEV用だと正負極ともに厚さが50 μmくらいで(モバイル用が100μmくらいなのでかなり薄くしている)、これでなんとか15Cくらいの負荷が数秒程度だがかかるHEVに使えるようにしている。容量は同じく正極規制だが、質量容量密度は正極で150 mAh/g、負極で400 mAh/gと仮定しよう。容量利用率がSOC = 30-80%だと容量規制している正極で75 mAh/gくらい使っていることになる。電圧は3.6 Vだから270 mWh/gということになる。15Cでこのうちの100%が使えるわけではない。
  3. 電源に多様な選択肢が有るのはメリットだが、リチウムイオンは性能がいいわけではなく、伸びしろに期待して使ってもらえているという印象が強い。
耐久性に関しても、トヨタ・プリウスの電池交換が15-20年経ってから(保証は5年、10万km。保証期間内は無償交換。)という実績が示すように(走行距離では18万-25万km)、HEV用ニッケル水素電池の耐久性は原油価格が$50-$60/barrelならば元が取れる程度に十分である。
  1. リチウムイオン電池もなんとかHEVに使えるように設計・マネジメントしているものの、コストは間違いなくニッケル水素よりかかっているだろう。リチウムイオンをHEV用に高入出力設計した場合、コストはBEV用の1.5倍かかる。ニッケル水素の3倍のコストがかかる。ニッケル水素1.3 kWhに対しリチウムイオンは0.75 kWhしか使っていないが、パックで1.7倍のコストがかかる。
  2. リチウムイオンがHEV(の代表であるトヨタ・プリウス)に搭載されるようになったのは2012年頃からなので、まだ交換の必要性は生じていないだろう。ニッケル水素と同等の耐久性であれば2027年頃には交換の必要性が出てくるはずである。
  3. 現在でもHEV用ニッケル水素の耐久性は十分ではあるが、仮にニッケル水素にTeslaなみの温度管理をすると出力ベースで耐久性は30倍に伸びる。劣化には酸素発生も関わり、酸素発生過電圧は高温で低下するので、温度制御は耐久性向上に有効である。:K. Morimoto, Electrochemistry 86 (2018) 349-354.
ニッケル水素でも水素は出るので爆発できないことも無いが、安全対策コストはリチウムイオンとは比較にならないほどニッケル水素のほうが安い。
  1. 通常は負極を正極よりも30-40%過剰に入れているので水素は出ない。
  2. 負極劣化が正極劣化より進んで正極過剰・負極不足になると水素が出る。
  3. 正極からの酸素の分解は負極水素化物中の水素を消費して行われているが、これも間に合わなくなるので酸素も電池内に蓄積される。このような状態になるとガス排出弁が開いてガスと同時に電解液も排出され、反応は止まるように、安全対策は取られている。
  4. そもそも水系電解液は燃えない。
  5. 負極のミッシュメタルは可燃物で水素を吸蔵した状態では燃えるが、水の中に漬けてしまえば問題は無い。
しかし、欲を言えば、原油価格が下がった場合にもコスト競争力が欲しい。
  1. 日本でHEVが本格的に売れ出したのが原油価格が$100を超えた2012年から。
  2. 2015年にHEVにおけるイニシャルコストとランニングコストがちょうどバランスしたときの原油価格が$50-$60。シェールオイルは$60でも採算が取れると言われて原油価格は$50-$60に下がった。
  3. 土地買収費用等が償却されればシェールオイルは$30でも採算がとれるようになると言われて更に$27まで下がった。このとき北米ではHEVの売れ行きが落ちて代わりピックアップトラックが売れ筋となり(燃費は非常に悪いが)、日本ではより燃費のいい軽自動車でかつMHEVが売り上げを伸ばした。
  4. その後、OPECプラスの協調減産で$50-$60の水準に戻った。これでHEVがコスト競争力を回復した。
  5. 現在はOPECプラスの必死の協調減産で原油価格が支えられているが、近年の原油価格には$40への回帰圧力が有り、暴落の可能性が無いとは言えない:
  6. ①2018年OPECプラス協調減産が中断後、$70から$40を目指して下降;
  7. ②シェール革命後の2016年の$110から$27への急降下;
  8. ③2008年リーマンクライシスで投機マネーが引き上げた結果が$131から$43への急降下。
  9. ④2020年のコロナウイルス禍で3月になってWTIは$40を切り、更に$30を切っていったんは反発したものの、その後$20を叩いた。これまでのところ原油輸出入量に大きな変化は無い。投機筋のセンチメントでこれだけ動く。
原油消費量削減およびCO2排出量削減/電池容量(kWh)効果が高いのはHEVである。
  1. 1台のBEVと2台のHEVでガソリン消費量削減効果は同じだが、必要な電池は前者が10-100 kWh、後者は2 kWh(リチウムイオンとニッケル水素で平均1 kWhとした)。
  2. 同じリチウムイオン電池で比較したとしてもHEV用の電池イニシャルコストはBEV用電池イニシャルコストの5割増しと考えたほうが無難であるが、それでもHEVの投資対効果はイニシャルコストだけでBEVの3.3-33倍である。
  3. ライフサイクルコストで言えば、Teslaのような高級車では浸漬水冷をすることで現在実装されている電池でもトヨタ・プリウスの電池の1.5-2.0倍の耐久性を見せているから、投資対効果は浸漬水冷コストを考慮しなければHEVの6.1-61%と善戦しているが、まだHEVに及ばない。他のBEVはTeslaの足元にも及ばない。
2014-2015年にしばしばLinkedinでも言及したように、ニッケル水素電池の劣化とメモリー効果に影響が有るとされているのは過充電によるβ-NiOOH相→γ-NiOOH相転移
  1. β相は安定に充放電するが、過充電されてできたγ-NiOOH相は放電してα-Ni(OH)2相になる。積層不整のある構造に変わることで電子伝導性が低下する。これがメモリー効果の原因と言われている。また体積変化があるので活物質剥落や電子伝導パスの断線にもつながる。これが劣化の原因と言われている。
  2. もっとも、HEVでは過充電が起きないようSOC範囲を低いほうに限定して使用しているから耐久性は高い上にメモリー効果も出にくい。
  3. しかし、容量利用率をもう少し高くできれば電池を小型化できて搭載している電池の重量を大きく下げられる。
  4. 例えば、現行いくらかわからないが仮にSOC=0-40%で使っているところをSOC=0-60%にできればパック重量のほとんどが電池重量とすると40kgから27kgまで減らせる。こうなるとリチウムイオンの電池パックと重量は3kgしか変わらない。SOC=0-80%が限界であろうが、ここに達すると20kgまで減らせる。リチウムイオンより4kg軽くなる。
  5. γ相⇔α相が入ると劣化はするが初期容量は50%高いので、これまではこの相を劣化させずに使って正極を高容量化するというのが主な検討対象になっている。劣化抑制には①安定なβ相との混晶とする、②ピラーとなる不活性なアルカリイオンや水分子を挿入する(活物質合成時にNaイオンが加えられていることが多い。同時に水分子が層間に挿入されているようである。例えばNaxNiO2・nH2O。)、③Niの一部をZn等の不活性な元素に置換する(Zn置換は元々β相⇔β相でも実施されている)(おそらく充電状態のγ相を安定化する目的だがAlやMnといった3価の元素で置換する場合もある)といった手法が主に検討されてきた。
  6. しかし、γ相⇔α相の高容量を発揮させるためには容量利用率を上げて使わなければならない。そうなると課題は酸素過電圧(正極/負極用量比は少しマージンを削らなければならない)である。現在はバッテリーマネジメント(SOC範囲限定)でこれを回避しているので、電池は大きく重い。
  7. 電子伝導性(ホール伝導性だが)の高いCo添加による活物質均一利用率の向上、Yb等の希土類酸化物添加による酸素発生過電圧の増大、電解液へのLi・K添加による酸素発生化電圧の増大(高温ではLi添加のほうが効く)等の対策の結果、酸素は発生しにくくなってはいるが、ローカルにでも正極の劣化が進んでその部分のSOCが高くなると酸素は出やすくなる。その結果、劣化する。耐久性の問題となる。
  8. 更に材料の改良ができればよいが、日本の電池メーカーがこれだけ長い間取り組んで壁に突き当たっている。これ以上は難しいのかもしれない。
  9. 負極に関しても、希土類ーニッケル合金とC36ラーベス相のMgNi2等との超格子構造が出たところで一応打ち止めの感が有った。希土類を完全に使用しないところまでは到達していないが、希土類と言っても分離精製したものではなく混ざりものを使っているのでそれほどコストが高いわけでもないし、生産国が偏っているわけでもない。ちなみに中国の高純度希土類出荷量が多いのは、分離精製するとコストもかかるし環境負荷も大きいが「安くやってあげる」としているためである。
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