EVの空調に次世代型磁気ヒートポンプ。環境省が2020年度実証へ 2019年10月29日

ここ:EVの空調に次世代型磁気ヒートポンプ。環境省が2020年度実証へ

  • ガソリン車はエンジン排熱を再利用した温風で暖房機能を賄っている。
  • EVは、そうした熱源を持たないため、冬場の航続距離維持が課題だった。
  • 環境省は、電気自動車(EV)の航続距離を延ばすため、カーエアコンの電力消費を抑える技術の実証に乗り出す。磁場変化で温度が変わる現象を活用する次世代ヒートポンプ(HP)などを確立し、運輸部門の温室効果ガスを大幅に減らす。
  • 第5次エネルギー基本計画では、次世代自動車の新車販売割合を30年までに全体の5~7割とする目標を掲げた。自動車新時代戦略会議の中間整理では、このうちの2~3割をEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)とする方針。

新車販売の35%以上をPHEV、10-15%をBEVとする方針になるが...。

果してこれが現実的なのか:Electrochemical Impedance Analysis for Li-ion Batteries (& economy a bit).

日本の自動車メーカーが「本来不要」としていたPHEVを普及させな換えればならない事情は理解できるが、BEVは軽自動車よりも小さい超小型車くらいでしか経済的にペイさせるのは難しい。これを普及させるような税制も整備されていない。

 

補足:【「理想形」のはずが…】PHEVが日本で八方ふさがりの苦しい事情 2019年8月27日

  • ハイブリッド車のバッテリーは、減速エネルギーを回生発電で回収して、内燃機関の不得意な発進加速などに使うのが主目的。だから、そのバッテリー容量は、おおむね1〜1.5kWh程度と、必要最小限度に抑えられている。
  • プリウスPHVは8.8kWh、アウトランダーPHEVは13.5kWh、クラリティPHEVでは17kWh。EV航続距離はそれぞれ68.2km、65km、114.6kmと大幅に拡大され、日常のお買い物や通勤程度なら、ほぼEVモードだけで走り切れるバッテリー容量が確保されている。
  • プリウスPHVで約320〜430万円、アウトランダーPHEVは約400〜500万円。クラリティPHEVだと588万600円。上限20万円の補助金はあるが、普通のハイブリッドに比べるとPHEVがかなり割高であるのは否めない。
  • この価格、けっして自動車メーカーがボッているわけではなく、要するにバッテリーのコストが上乗せされた結果だ。たとえば、リーフには電池を62kWh搭載したe+と40kWhの標準車があるが、その価格差がだいたい50万円。日産は戦略的にe+の価格を抑えているはずだから、プラグインハイブリッドは原価レベルで50万円近いコスト増が不可避と考えられる。

BEV用の電池はHEV用に比べて低価格だがそれでも22,727円である(電池パックの価格だが)。CATLなどは10,000円を目指すと言っているが、その手法はハイニッケル正極採用・Si系負極の増量である。有望な策とも思えない。

ちなみにHEV用の電池は現状ではBEV用の1.5倍ほどかかる。出力特性に優れた全固体電池であればBEV用もHEV用も同じ電池が使用できるようになると期待されている。

  • そんな、いまひとつブレイクできないプラグインハイブリッド車ながら、欧州車勢が妙に熱心なのを不思議に思う人もいるのではないかと思う。
  • ところが、実はこれ、環境規制当局による“インセンティブ”なのだ。
  • ご存じのとおり、EUでは2021年から走行1kmあたりのCO2排出量を95g以下に規制する厳しい環境基準が施行される。これは、ガソリン車の燃費でいうと25km/Lに近く、大型大排気量車の多い高級車メーカーにとっては、ほぼ達成不可能な高いハードルとなっている。そこで、環境規制当局はPHEV車に関しては「(EV航続距離+25km)÷25」という「削減係数」を算出させ、エンジン走行による実際のCO2排出量を、この削減係数で割った数字をカタログ上のCO2排出量として認めるという救済措置を設定したのだ。ありていにいえば「PHEV化すればゲタを履かせてあげますよ」ということ。地元メーカー保護のため環境規制ルールを捻じ曲げたと言われても反論できないところだ。この計算式を使えば、EV航続距離が25kmあればカタログ上のCO2排出量は半減。50kmあれば三分の一になって、CO2排出量270g/km(リッターあたり8km)台でも余裕で規制をクリアすることができる。コストに余裕のある高級車メーカーがこぞってPHEV仕様を設定するのは、この抜け穴狙いと言っても過言ではないのだ。

  • 思い返せば、日本でハイブリッド車ブームが始まったころ、欧州勢は「あれじゃコスト割れ必至」と冷ややかな目で見ていたわけで、その対抗策として「環境志向パワートレーンの本命はダウンサイズターボとクリーンディーゼル」という路線を選択した。結果として、低コストな量産ハイブリッド車を生み出すことができず、例の不正問題でディーゼルにも逆風。起死回生のEVシフトは中国の政策変更で雲行きが怪しくなり、CO2排出95g規制対応もそろそろ時間切れで待ったなし。まさに八方塞がりの状態だ。

まあ、実際、HEVもなんとか元が取れるという程度のものではあるのだが。

この記事ではまずHEVの普及、ついでBEVシフトとしている。まずHEVの普及が原油消費量削減(主に価格上昇の抑制・価格上昇をある程度受容するとしても総コスト上昇の抑制が目的だが)及びCO2排出量削減に効果的であるという点には同意するが、必ずしもBEVはソリューションでないように思う。

欧州市場は高級車をPHEV、残りを超小型のBEVを二極化する必要も有るかもしれない。しかし、このような経済性を度外視した政策を日本で進めるべきなのか?

中国はHEVの有効性を2019年から認識し始めたので、日本市場と同じ対応が可能である。おそらくは東アジアのほうが欧州より原油消費量削減・CO2排出量削減に効果を挙げると期待される。

さて、BEVを超小型とした場合に懸念されるのは、これがコストを掛けられないカテゴリーであるから特にそうなのだが、空調である。自動車用の空調は、その車室体積が小さいために住居のそれに比べて2倍以上のハイパワーが要求される。

前述の磁気ヒートポンプは、従来の期待の膨張・圧縮を利用した冷凍機(暖房に使う場合は暖房機だが)ではなく磁性体の断熱励磁を利用するのだが、欧州などで盛んに研究はされているもののまだ効率が低い。

おそらくは車室の断熱も検討していかなくてはならなくなる。

断熱は熱伝導率の低い真空(魔法瓶には使われるが車体には難しい)や気体の体積比率の高い構造材料を使うのがスタンダードであるが、これに加えて現在車体を覆っている熱伝導率の高い鋼板を熱伝導率の低いものに代えることも検討する必要が出てくるように思う(これがまた鋼板に比べて高コストなのだが)。

まあ、BEVは空調コストを感がる必要の無い二輪でやっておいたほうが無難な感も有る。