英国は中国との対決姿勢にかじを切ったのか 2020/6/27

ここ:英国は中国との対決姿勢にかじを切ったのか

  • 中国が、香港の統制を強める「国家安全法制」の新設を決定したことを受け、香港の旧宗主国・英国が対中姿勢を硬化させている。香港返還に当たり、「1国2制度」を50年間保障することで中国と合意した英国では、中国政府が進める近年の香港への統制強化に対し、少しずつ懸念が募ってきていたが、香港の高度の自治を危うくする法制の新設決定で不信感が一気に噴出した形だ。
  • 香港問題だけではない。中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を巡る問題や、新型コロナウイルス感染拡大への中国当局の対応などを通じて、英国で醸成され強まってきた「中国警戒論」は、今後の両国関係を変え、中国を取り巻く国際関係に影響を与える可能性もある。英国が中国への対決姿勢を強める背景には、どんな思いがあるのか。

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  •  香港には、香港返還(1997年)以前に香港に居住していた人で希望する人に対して英国が発行した「英国海外市民」という旅券を持つ市民が30万人以上いる。英国海外市民は、英国本土にビザなしで6カ月滞在できるが、英国での労働などの権利はない。パテル内相は28日にツイッターで「(法制が香港に)適用されれば、私とラーブ外相は英国海外市民の市民権(取得)に道を開く選択肢を検討する。英国は香港市民の権利と自由を守り続ける」と投稿。ラーブ外相も同日、「中国が法制実現に進み続けるなら、英国海外市民旅券保持者の地位を変更する」として、その場合、英国海外市民の滞在限度を12カ月まで延長し、労働の権利も認めて市民権取得の道筋をつける意向を表明した。さらに、ジョンソン首相は6月3日付の英紙タイムズへの寄稿で、ラーブ氏が表明した市民権取得の対象について、現在英国海外市民旅券を保持している人だけでなく、同旅券の申請資格を有する約250万人も念頭に置いていることを明言。「多くの香港の人々の暮らしが脅かされている。中国がこの脅威を正当化しようとするなら、英国は良心に鑑みてこれを放置することはできない」と述べ、断固たる姿勢で中国に臨む姿勢を強調した。

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  • ジョンソン氏の寄稿がタイムズ紙に掲載された3日、私はマルコム・リフキンド元英外相(73)に電話でインタビューする機会を得た。リフキンド氏は保守党サッチャー政権(1979~90年)、メージャー政権(90~97年)でさまざまなポストの閣外相・閣僚を歴任。...リフキンド氏は、国家安全法制適用について1国2制度を明記した英中共同宣言に違反すると非難する声明文を、「最後の香港総督」だったクリス・パッテン氏とともに作成し、各国の議員に署名を呼びかけ、898人(6月16日現在)の賛同を集めた。また、保守、労働両党の党派の違いを超えた英外相経験者6人とともに、英国がリードして中国に圧力を加える国際的連携を構築すべきだとする書簡を英政府に送付。...香港立法会での議決なしに国家安全法制を香港に適用するのは「容認できない」というリフキンド氏が強調するのは、「法の支配」を巡る問題だ。「根本的なことは、香港には法の支配があるが、中国にはないということだ。中国に法治はあり、法律はある。しかし、彼ら(中国政府)は彼らの政治システムの推進のため、また、反対勢力を犯罪者として取り扱うために法を利用する」「法の支配がない」ことについてのリフキンド氏の中国に対する懸念と不信感は、かなり以前までさかのぼる。リフキンド氏は16年に著した自身の回顧録の中で、こんなエピソードを紹介している。香港返還直前、外相のリフキンド氏がカウンターパートである中国の銭其琛外相と会談した際に「法の支配」について持ち出すと、銭氏はリフキンド氏に「心配は無用。中国政府も法の支配を信じている」との趣旨で応じ、さらに「中国では、人々は法に従わねばなりません」と付け加えたという。リフキンド氏は「西洋では、人々だけでなく政府も法の下にあるのだと私が指摘した時、彼(銭氏)はそんな考えは理解できないようだった」と記した。リフキンド氏はこの挿話を、国家安全法制が全人代で可決された翌日の5月29日付の英紙デーリー・テレグラフへの寄稿でも触れ、中国共産党の「法の支配」理解の危うさを訴えている。

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*1:そもそも通信などという事業で、中国において共産党の影響力を受けないなどということが有り得るのか。認識が甘かったと言わざるを得ない。

*2:法整備には時間がかかるが、中国が香港に関して姿勢を改めることを期待しているような甘さも若干見られた。有り得ないのだ。

*3:ただしグローバル金融というのは無国籍企業であるから、そもそも「自国」という概念が無いし、仮の「自国」が危機にさらされることには無頓着なのであるが。