中国情勢 人口オーナス対策2

前回のブログ:中国情勢 人口オーナス対策

  • 第一次産業:人口も大きく、海外からの食料供給能力に限界が有るため、自国での食糧生産も必要(ただし、主要穀物に関しては自給率は高い。農業の資本主義化も検討されている。)。
  • 第二次産業イノベーションの経験が無い(現代中国経済入門 人口ボーナスから改革ボーナスへ 蔡昉』にも「必ずしも自前で技術革新をする必要は無い。むしろ、新技術の採用を妨げるような制度をなくせば、必要な技術は模倣、借用、購入、外国企業の直接投資を通じて入手できる。」とある。実に中国らしい。なお、第二次産業に限った記載ではない。)。
  • 第三次産業:新世代によるIT利用もあって徐々に伸びてきている。人口は大きいので、経済格差を是正して潜在需要を開拓することで内需を経済エンジンにするのが当面の打開策である - 純輸出の寄与の高かった2005-2007年でも10.6-15.1%、2015年には内需も60%前後まで増えているから転換は進んでいるとも言える。ただし資本形成(インフラ・不動産投資)の比率がまだかなり高い。2009年はリーマン後ということもあったが寄与率が86.5%に達した。

農民工の賃金の実質成長率(物価上昇を考慮)は一人当たりGDPの成長率を2%以上上回っている。成果はこれまでのところ出ているように思えるし、政策も引き続きこの方向に有る。ただし、現代中国経済入門 人口ボーナスから改革ボーナスへ 蔡昉』に「退職年齢を引き上げて労働参加率を高めようとするときは高年齢層の教育水準が若年層に比べて見劣りしないことが想定されている。こうした想定は先進国では現実的であるかもしれないが、中国では現実的ではない。中国では高齢になればなるほど平均的な教育水準は低くなる。」とある。あくまで三農改革に依存する。

課題として、労働生産性を上げていかなければならないが、現代中国経済入門 人口ボーナスから改革ボーナスへ 蔡昉』では

  • 資本市場の発展: ①国有企業の生産性が民営企業に比べて低くかつ伸びていないことを指摘している。国有企業が銀行からの融資を優先的に受けられるのに対し、民営企業がいわゆるシャドー・バンキングに頼らざるを得ないことを指摘しているものと推測される。②日本の公共投資・金融緩和が社会資本の形成につながらず、不動産市場・株式市場・海外資産市場に流れたことも分析している。これを踏まえて、実体経済・社会資本形成につながるような仕組みを模索しているようである。
  • イノベーションと高等教育の加速化: イノベーションにつながっているかはともかく、日本よりは教育への公共投資は多い。GDPの4%を投入している。ITサービスでは日本より先行して成果が出ていると言えなくもない。
  • 都市管理の改善=住みやすい都市の建設・法の支配の実現: 都市インフラ整備は必要であろうがあれだけ広い国土の、隅々とまではいかなくとも、核としたい地域全てにインフラ整備することは可能であろうか?法整備だが、以前に比べると進んでいる。
  • 地方分権: あれだけ広大な国土と14億もの人口を抱えているため必要だが、地方政府ほど腐敗が酷く、また中央政府を倣って強権的である。だから、試験的に民主化してはどうかと思うのだが。北京から遠からず近からずあたりが適当かと思われるが。
  • 反腐敗: 王岐山が数十回もの暗殺未遂にめげず推進しているが、習近平の静的ばかり粛清している。
  • 生産資本の企業間・産業間・地域間の移動と再分配: ゾンビ企業→優良企業、第一次産業第二次産業第二次産業第三次産業、農村→地方都市。

を挙げている。

また、比較優位にあった労働集約型産業の延命策として

  • 沿海から内陸への移転: 沿海部から戻った農民工の再就職で補われるとしている。

を挙げている。

中国崩壊論者の予想を全否定するわけではないが、やるべきことはやろうとはしており、日本も参考にすべきところは有ると思われる。遠大な社会実験を実施している国とも言え(社会主義を標榜する強権的国家であるからできる部分が多々有るが)、中国の言う「後発の優位性=模倣、借用」を社会実験の結果を見たうえで検討するのもアリかと。