Electrochemical Impedance Analysis for Li-ion Batteries (& economy a bit) 補足3 硫化物全固体電池ほか

次世代電池の中では、インターカレーション・マテリアルを使いつつ全固体化してバイポーラ化する・安全対策を簡略化することで結果的に高エネルギー密度化しつつコストも下げるという筋立てが、あくまで相対的にだが、一番ましなもののようには思われる。
  1. 硫化物全固体では冷却も不要であるから、その分は電池システムとしてのエネルギー密度は上がる。
  2. 現状では高エネルギー密度とは言い難いが、バイポーラ電極の量産プロセスが確立されてから本格的に高エネルギー密度設計が始まるだろう。バイポーラはセル内で直列接続されている。バランサ無しで充放電がバランスしている必要が有る。まだ課題が有る。
  3. 硫化物全固体ではフル充放電でも電解液と同等レベルの耐久性が既に得られており(小型品だが:コイン形全固体電池、10年超使用可能に ー マクセルが「長寿命」型を開発)、耐熱性が高いことを鑑みれば実使用での耐久性は電解液系を凌駕するだろう。
  4. 硫化物固体電解質のイオン伝導度が上がったのは、期待の上を行った。製法は何十時間もメカノケミカルな処理(大規模にやるとかなり電力を消費する)をした後に結晶化するなど現状かなり高コストのように思われるが、低コストな湿式製法も検討しているとアナウンスされている。
  5. 外装するまでは一貫して不活性雰囲気で製造する必要が有り、コストアップが課題となっているが、日本では既に専用ラインもできている。
  6. ちなみに全固体では、注液、及び、初期充放電・SEI/CEI形成・ガス抜きが不要なため、ここでのコストは大幅に下がるだろう。初期充電くらいはするかもしれない。
全固体と言えば、吉野彰氏がGoodenoughとBragaの塩化物・酸化物複合化合物固体電解質、Li2O-LiCl-BaCl2(BaCl2は微量のドーパント)(GoodenoughにとってはNASICON以来の固体電解質である)を、リチウムデンドライトができないからおもしろいと書いている。
  1. 他にも酸化物ではガーネット型やLIPONもリチウムデンドライト析出を抑えるが、吉野彰氏は従来材料に無い特性としてLi2O-LiCl-BaCl2には電解液の80倍のリチウムイオン密度があることに着目しているようである。硫化物でも30倍。これが高い入出力特性につながる。
  2. 1990年代の松下電池の例でも見られるように、硫化物全固体電池では負極側にはLiIの入った固体電解質を、正極側にはSiS2の入った固体電解質を使う。LiIの入った固体電解質は全固体一次電池でも知られているように自己修正型だから(I2が少し入っていると特にそうなる)デンドライト成長そのものは防げず、短絡を水際で防ぐ思想である。SiS2はリチウムによって還元されてリチウム合金となり大きく体積変化するからこれもデンドライトを防げない。このような材料が入っていないからBragaグラスはリチウムデンドライトが成長しないのかもしれない。もっとも、硫化物全固体でも、空孔やクラックが有ればそこからデンドライト成長できるが、そのリスクは電解液に比べれば低い。
  3. 一方、Bragaグラスだが、正極でのリチウムデンドライト析出によるキャパシタとしての大容量に注目が集まっているようである。が、容量が安定しないだろう。金属リチウム負極を使っているのは正極でのリチウムデンドライト析出に必要であるからだが、利用率が低く、電池としては商品にならないだろう。インターカレーションマテリアルとの組み合わせが検討されるとおもしろい。ただ、硫化物固体電解質のような可塑性が有るかと言われると、無い。界面形成は難しい。
日本では2018年からオールジャパンで硫化物全固体に取り組んでおり、これも当初は宣伝用にいくらかはBEVに搭載されるであろうが、経営的にうまくいくようならHEVに搭載されるようになるだろう。
  1. (Bearな側面1)硫化物全固体だが、現時点では活物質密度が50vol%(重量比では75wt%)かそれ以下の電極でないと固体電解質層が不連続になってしまい、良い特性が得られない(例えば日本分析機器工業会のトヨタの全固体電池の断面写真)。電解液系では45-54vol%(90wt%)の電極であることを考えると高エネルギー密度設計にはならない。今のところは高パワー設計が要求されるHEVのほうが都合が良い。
  2. (Bearな側面2)高電位系正極は使えるが、エネルギー密度が高くなるかは微妙である。セル電圧が3.6Vから4.7Vに上がっても(+30%)、容量が150mAh/gから100mAh/g(-33%)に減ってしまっては意味が無い。高電位系オリビンは容量も高いものの活物質充填密度が下がる。
  3. (Bullな側面1)前述の記事の写真で全固体の電極膜厚は100μmと厚くなっているが、原理検証サンプルでは電解液系の7.5倍の入出力特性が得られる(注1)から、電解液系で2Cの急速充電ができるところを硫化物全固体なら15Cにできる。量産品ではもう少し落ちるだろうが。もちろんBEVにも使用するメリットはあるが、現状ではBEVを15Cで急速充電することが可能なインフラは無い。一方、この15CというのがHEV用電池で数秒レベルだが頻繁にかかる負荷である。これまでの電解液系のHEV用リチウムイオン電池がSOC=55±25%で使われていたとしよう。これを全固体化でSOC=0-100%とできると活物質材料コストは半分になる。これまでの電解液系のHEV用リチウムイオン電池が電極膜厚50μmでつくられていたとしよう。これが全固体化で膜厚100μmでつくれるようになるとプロセスコストは半分になる。全固体電池はHEVに使用されるとメリットが大きいのである。
  4. (注1)大阪府立大学の硫化物固体電解質のイオン伝導度が輸率も考慮すれば電解液の5倍、東京工業大学の硫化物固体電解質のイオン伝導度がやはり輸率も考慮すれば電解液の7.5倍。
もっとも、硫化物全固体ばかりでなく、電解液でもすぐに使える良いものは出ている。
  1. スズキのMHEVに搭載されている東芝SCiB(Li4Ti5O12/LiMn2O4だったがLi4Ti5O12/Li(Ni,Co,Mn)O2に代わって正極は既に高容量化している)は十分に耐久性が高いが、Li4Ti5O12の容量がハードカーボン(450mAh/gを想定)の40%程度と低かったことが大幅な普及を妨げていた。
  2. しかし後継の高容量材料であるTiO2:Nb2O5=1:1の複合酸化物が、今のところ水熱合成品でしか良い特性は出ていないものの、Li4Ti5O12と同じような電位で387mAh/gの容量が出る。この材料の良いところはもう一つ、電子伝導性が高そうなところ(データはまだ見ていない)。Li4Ti5O12はいったん電子注入されれば電子伝導性は高いが、最初の電子注入の抵抗が高い。
  3. また、東芝は、正極中に酸化物固体電解質を混合して、どうやらリチウムイオンリザーブではなく電気二重層効果のようだが、レート特性が良くなるために厚膜化して高エネルギー密度化できるとしている。6分程度(10C)でフル充電できる設計にして出すようである。現在はこのような急速充電に対応できるインフラが無いが。
  4. 東芝のPRを読むとBEV用(三菱自動車工業のMiEVにSCiB搭載。10.5kWhまたは16kWh。)を期待されているようだが、XHEVに使われてもおかしくはない。今後の稼ぎ頭となるHEVでは当面のコスト優位性を重視して設備の償却の終わったニッケル水素や、近いうちに償却されるであろうハードカーボンを使った電解液系のリチウムイオン電池が当分の間優先的に使われるであろうが、PHEV辺りはねらい目になるかもしれない。現在のNEVはクレジット対策なのでBEVとPHEVの売り上げ比は同等かむしろBEVのほうが高いくらいだが、電池の搭載量が大きくコストが高いBEV(部品点数が少ないがコスト比率で圧倒的に電池のそれが高い)よりはPHEVのほうが投資効率は良い。販売台数が増えてくるとこの違いが顕著になる。PHEVの電池搭載量は多くてもせいぜい10kWh。前述のMiEVと同程度だが走行距離は比較にならない。他のBEVは同じく三菱自動車工業i-MiEVが16kWh、ニッサンのリーフが24kWhと40kWhなど、ホンダのHonda eは35.5kWh(走行距離は220km)、VWのe-GOLFも35.8kWh。
  5. 中国は2019年度にHEVシフトへ舵を切ったが、それ以前にBEVよりむしろPHEV優先ともとれる政策変更をしている。大型車はFCVシフトしているがこれがFCレンジエクステンダである。ICレンジエクステンダはPHEVカテゴリーである。
  6. 6分程度でフル充電できる設計は10C相当だが、15Cでも容量利用率は高いだろう。設計はこのままで、HEVに使われてもおかしくはない。
  7. 確実に売れる市場向けに商品設計するほうが安全だろう。
  8. 2020年度の報道では、既に市場獲得しているMHEVで更に電池搭載量を減らす(容量利用率を高くできるため)としている。今のところ、既存品のLi4Ti5O12でこれを狙うと発表している。